きぬた・京都府
棹物としては小ぶりであり、見た目もかなりシンプルなお菓子です。
赤い羊羹を薄くのばした羽二重状の求肥で何層にも巻いてあり、その外観はまるで反物のようだということで「きぬた」というネーミングになったのでしょうか?
そもそも「きぬた」とは「布を打つ道具」のことだそうです。
Wikipediaによると、アイロンのない時代に洗濯した布を生乾きの状態で台にのせ、棒や槌でたたいて柔らかくしたりシワを伸ばしたり、同時に光沢を出したりするために使用した道具。
その印象的な音は多くの和歌にも詠まれ、多くの浮世絵の題材にもされてきたそうです。
長久堂の初代長兵衛さんが、郷里の丹波路で聞いたよ秋の夜の砧で布を打つ音の幽玄趣に印象を得て創製したと伝えられているのが「きぬた」という銘菓なのです。(「日本銘菓事典」より)
華奢な女性のための反物のようでもあり、上流階級の「うち衣」を仕立てるための反物とはこういうものだったのかと想像を巡らせたくなるようなその姿はかなり控えめです。
しかしそのお味と言ったら、成人前の少女ですら「なにこれ?!」と驚き、その上品な美味さと口当たりに衝撃を受けたものです。(40年前のわたくし)
美味しさの秘密は、ひとつにはのばした求肥の薄さにあると思います。
お餅なのにお餅ではないぐらい繊細な口当たり。弾力性ぎりぎりのラインを保っている薄い求肥は芸術ものです!
もうひとつは、和三盆をまぶしてあるという点。
羊羹+求肥+和三盆という足し算は、思い付きそうでなかなか気づかない組み合わせです。
初代長兵衛さんのころから和三盆がまぶしてあったのかどうかはわかりませんが、シンプルな美味を追求していく途中でこの組み合わせを完成させた長久堂さんってすごいと思います!